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山梨県を代表する日本酒銘柄のひとつ「甲斐の開運」。香り高く上品な味わいが多くのファンに愛され、数々の日本酒鑑評会でも高い評価を得ています。醸造元は、富士河口湖町の井出醸造店。江戸時代から続く酒造りの老舗です。今回は、社長で21代目当主の井出與五右衞門(よごえもん)さん=写真左=、杜氏(とうじ)の初沢則孝さんにインタビューを行い、おいしさの秘密と、酒造りの舞台裏にクローズアップしていきます。
日本酒といえば、新潟や秋田など「米どころ」で醸造されているイメージがありますよね。標高850mを超え、お米が名産とはいえない富士河口湖町で、なぜおいしいお酒を醸すことができるのでしょうか。杜氏の初沢則孝さんに、この疑問をぶつけてみました。「まずは、きれいな水に恵まれている点です。酒造りにはたくさんの水を必要としますから、気兼ねなく使えるのは大きなメリットですね。よその地域では、水を何度も濾過して使う醸造元もあるくらいですから。また酒蔵では、麹や酵母などの微生物を扱うため、雑菌の存在はマイナスです。このまちの空気は雑菌が少なく、酒造りにはぴったりです」地下で磨かれた富士山の伏流水と、澄んだ空気。富士河口湖町の豊かな自然環境が、大きな役割を果たしているんですね。「それに加えて、冬の寒さもポイントです。お酒の発酵過程では、蔵を低い温度に保つ必要が出てきます。温暖な地域では空調を使いますが、均一に冷やすことは難しく、空気が動くことで雑菌が入る可能性も高まります。その点、冬に連日氷点下の冷え込みになるこのまちでは、その心配はいりません」なるほど、凍えるような厳しい冬の寒さも、酒造りには好都合。このまちの風土そのものが、「甲斐の開運」を支えているようです。
富士五湖エリア唯一の造り酒屋である井出醸造店は、河口湖畔の船津(ふなつ)地区に位置しています。約300年前に醤油や味噌の蔵元として創業し、江戸時代末期に日本酒の醸造を開始。以来160年以上にわたって酒を醸し続ける老舗です。「地域に育てていただいている私たちには、この土地の『ラベル』になる酒をつくり、地域愛を育てていく使命があります」と話すのは、21代目当主の井出與五右衞門社長。酒造りで最も大切なのは「人」、つまり造り手だといいます。「もともと気候や環境に恵まれていますから、温度や水質などに余計に気を取られる必要がありません。だからこそ造り手は、じっくりお酒を観察できる。彼らが素材や環境の良いところをすくい取り、それを生かすのが本来の酒造りなのです」そのために井出醸造店では、造り手たちの「地域密着」にこだわりを持っています。「昔ながらの杜氏制度は、冬場だけ蔵を訪れて酒を造る、季節労働的な性格がありました。しかし当店では、埼玉県出身の初沢をはじめ、蔵人たちはみな地元に根を下ろしている者たちです。地域の水で顔を洗い、歯を磨き、風土になじんでこそ、その特性を生かした酒造りができるはずです」
「甲斐の開運」は、権威ある日本酒鑑評会で数々の賞を授与されています。とくに2019年は、二大鑑評会と称される「全国新酒鑑評会」「南部杜氏組合鑑評会」で金賞を受賞。東京国税局の酒類鑑評会では、4部門すべてで優秀賞に選出される快挙を成し遂げました。「受賞は造り手へのごほうび。とてもありがたいことです」と井出社長。一方で「あくまで合格点を頂いただけ。それで完璧と思えば先がありませんから、さらに上を目指していかないと」と真剣な表情で語ります。「ときに言い合いをしながら蔵人たちと頑張ってきたことが、受賞で報われた思いです」と頬を緩ませた初沢さんも、「酒造りに100%はありませんが、つねに『120%』を目指さなければ90%にさえ到達できません。辛くても、面倒でも、手を抜かない。飲んでいただく人を裏切らないことを追求していきたいと思っています」と決意を新たにしていました。
「甲斐の開運」といえば、ふわりとたちのぼる上品な香りが特徴的。井出社長は、「日本酒は、世界に冠たる食中酒。食事を楽しむための『スーパーサブ』と言えます。だからこそ、バランスのとれた飽きのこない味わいを目指しています」と話します。では、どんな飲み方をすればいいのでしょうか?「とくに醤油味の料理や魚介類、あっさりとした肉料理にはぴったりです。生臭さを消してくれますし、料理の余韻を楽しむこともできる。甘みや苦み、酸味が少しずつ入ったバランスのとれたお酒だからこそ、さまざまな料理に合うんです」と井出社長。初沢さんのおすすめは、お燗(かん)なんだとか。「とくに暑い季節は、ビールのようにスカッと爽やかなお酒も良いですが、食事にはお燗が一番だと思います。とくに、旬の食材と一緒に楽しんでほしいですね」さまざまな表情を見せてくれる「甲斐の開運」。飲み比べながら、自分に合った一杯を探すのも楽しそうですね。
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山梨県を代表する日本酒銘柄のひとつ「甲斐の開運」。香り高く上品な味わいが多くのファンに愛され、数々の日本酒鑑評会でも高い評価を得ています。醸造元は、富士河口湖町の井出醸造店。江戸時代から続く酒造りの老舗です。今回は、社長で21代目当主の井出與五右衞門(よごえもん)さん=写真左=、杜氏(とうじ)の初沢則孝さんにインタビューを行い、おいしさの秘密と、酒造りの舞台裏にクローズアップしていきます。
清らかな水 そして厳しくも豊かな自然が支えるおいしさ
日本酒といえば、新潟や秋田など「米どころ」で醸造されているイメージがありますよね。標高850mを超え、お米が名産とはいえない富士河口湖町で、なぜおいしいお酒を醸すことができるのでしょうか。杜氏の初沢則孝さんに、この疑問をぶつけてみました。
「まずは、きれいな水に恵まれている点です。酒造りにはたくさんの水を必要としますから、気兼ねなく使えるのは大きなメリットですね。よその地域では、水を何度も濾過して使う醸造元もあるくらいですから。また酒蔵では、麹や酵母などの微生物を扱うため、雑菌の存在はマイナスです。このまちの空気は雑菌が少なく、酒造りにはぴったりです」
地下で磨かれた富士山の伏流水と、澄んだ空気。富士河口湖町の豊かな自然環境が、大きな役割を果たしているんですね。
「それに加えて、冬の寒さもポイントです。お酒の発酵過程では、蔵を低い温度に保つ必要が出てきます。温暖な地域では空調を使いますが、均一に冷やすことは難しく、空気が動くことで雑菌が入る可能性も高まります。その点、冬に連日氷点下の冷え込みになるこのまちでは、その心配はいりません」
なるほど、凍えるような厳しい冬の寒さも、酒造りには好都合。このまちの風土そのものが、「甲斐の開運」を支えているようです。
地域に根ざした造り手が、じっくり酒に向き合う
富士五湖エリア唯一の造り酒屋である井出醸造店は、河口湖畔の船津(ふなつ)地区に位置しています。約300年前に醤油や味噌の蔵元として創業し、江戸時代末期に日本酒の醸造を開始。以来160年以上にわたって酒を醸し続ける老舗です。
「地域に育てていただいている私たちには、この土地の『ラベル』になる酒をつくり、地域愛を育てていく使命があります」と話すのは、21代目当主の井出與五右衞門社長。酒造りで最も大切なのは「人」、つまり造り手だといいます。
「もともと気候や環境に恵まれていますから、温度や水質などに余計に気を取られる必要がありません。だからこそ造り手は、じっくりお酒を観察できる。彼らが素材や環境の良いところをすくい取り、それを生かすのが本来の酒造りなのです」
そのために井出醸造店では、造り手たちの「地域密着」にこだわりを持っています。
「昔ながらの杜氏制度は、冬場だけ蔵を訪れて酒を造る、季節労働的な性格がありました。しかし当店では、埼玉県出身の初沢をはじめ、蔵人たちはみな地元に根を下ろしている者たちです。地域の水で顔を洗い、歯を磨き、風土になじんでこそ、その特性を生かした酒造りができるはずです」
二大鑑評会で金賞! 決意新たに、さらなる高みへ
「甲斐の開運」は、権威ある日本酒鑑評会で数々の賞を授与されています。とくに2019年は、二大鑑評会と称される「全国新酒鑑評会」「南部杜氏組合鑑評会」で金賞を受賞。東京国税局の酒類鑑評会では、4部門すべてで優秀賞に選出される快挙を成し遂げました。
「受賞は造り手へのごほうび。とてもありがたいことです」と井出社長。一方で「あくまで合格点を頂いただけ。それで完璧と思えば先がありませんから、さらに上を目指していかないと」と真剣な表情で語ります。
「ときに言い合いをしながら蔵人たちと頑張ってきたことが、受賞で報われた思いです」と頬を緩ませた初沢さんも、「酒造りに100%はありませんが、つねに『120%』を目指さなければ90%にさえ到達できません。辛くても、面倒でも、手を抜かない。飲んでいただく人を裏切らないことを追求していきたいと思っています」と決意を新たにしていました。
飲み飽きず、料理引き立つ「甲斐の開運」
「甲斐の開運」といえば、ふわりとたちのぼる上品な香りが特徴的。井出社長は、「日本酒は、世界に冠たる食中酒。食事を楽しむための『スーパーサブ』と言えます。だからこそ、バランスのとれた飽きのこない味わいを目指しています」と話します。では、どんな飲み方をすればいいのでしょうか?
「とくに醤油味の料理や魚介類、あっさりとした肉料理にはぴったりです。生臭さを消してくれますし、料理の余韻を楽しむこともできる。甘みや苦み、酸味が少しずつ入ったバランスのとれたお酒だからこそ、さまざまな料理に合うんです」と井出社長。
初沢さんのおすすめは、お燗(かん)なんだとか。「とくに暑い季節は、ビールのようにスカッと爽やかなお酒も良いですが、食事にはお燗が一番だと思います。とくに、旬の食材と一緒に楽しんでほしいですね」
さまざまな表情を見せてくれる「甲斐の開運」。飲み比べながら、自分に合った一杯を探すのも楽しそうですね。
160年の伝統を誇る「甲斐の開運」。誉れ高きその味は、清らかな水と自然環境に恵まれた富士河口湖町で、じっくり酒に向き合う造り手たちによって生まれていることがわかりました。香り豊かなのに料理を邪魔せず、飽きのこないおいしさ。この機会に体験してみてはいかがでしょうか。また蔵元では、毎日2回の蔵見学(要予約・不定休)や、蔵開きイベント(毎年2月)を開催しています。現地にもぜひ訪れてみてくださいね。